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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)348号 判決

主文

本件上告を棄却する。

被告人に對し當審に於ける未決勾留日數中六十日を本刑に算入する。

理由

辯護人佐々木正泰の上告趣意第一點について。

刑事訴訟においては第二審は第一審の續審ではなく覆審であって第一審とは別個の手續であるから第一審の訴訟手續に對する非難は第二審判決に對する上告適法の理由とならないし、第一審において一旦申請した證人でも、その後その申請を撤回してしまった證人は、第二審においてあらためて申請しなければ、第二審においてその訊問申請をしたことにはならない。原審公判調書によれば、裁判長が、證據調の終了後、利益となるべき證據あらば提出し得る旨を告げ、刑訴應急措置法第十二條の趣旨を解示したのに對して、被告人は無之旨を答え、辯護人は立證なしと述べたとあって、被告人も辯護人も被害者田中源吉及同トクの訊問請求をしなかったことが明白であるから、假に第一審において所論のようないきさつがあったとしても、原審が田中源吉及び同トクに對する司法警察官の聽取書を證據に採用したことは少しも違法ではない。

又前記第十二條第一項但書は、被告人の側より同條所定の書類の作成者又は供述者について訊問の請求があったけれども、訊問の機會を與えることができないか又はそれが著しく困難な場合の規定であって本件のように被告人の側からその請求のなかったこと前記の如くである場合には、適用のない規定であるのみならず、その規定の趣旨とするところは、所定の書類を證據とするについては、これについての制限及び被告人の憲法上の権利を適當に考慮しなければならないというだけであって、所論のように、被告人が公判期日において直接に訊問する機會を持たなかった書類の供述者の供述記載の中、被告人に不利益な部分を證據に採用してはならないというのではないのである。

從って原審が田中源吉及び同トクに對する司法警察官の聽取書中の同人等の供述記載をその侭證據として採用したとしても、そして又その中に第一審における證人前田辯次の被告人に有利な供述(この供述は第一審判決も第二審判決も證據に採用していない)に反する部分が含まれていたとしても、違法ではない。原判決がその擧示の證據により、被告人等の判示所為を以て、田中源吉及び同トクの反抗を抑壓する程度のものであったと認定したことは、十分肯認できることである。從って被告人等の所為を恐喝罪とせずに強盗罪にあたるものと認定問擬した原判決には、審理不盡若しくは擬律錯誤の違法は存しない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由に刑事訴訟法第四百四十六條に則り本件上告は之を棄却し、尚刑法第二十一條に從い、被告人に對し當審に於ける未決勾留日數中六十日を本件に算入すべきものとし、主文の通り判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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